新・オーディオ入門 10
『オーディオはよくわからないけど良い音で音楽を聴きたい』、『オーディオ歴は長いけどこれは知らなかった!』というお話を聴くことがあります。 新オーディオ入門はオーディオの基礎についてエンジニアの視点から初心者の方にも判りやすく解説していくものです。 タイトルは私が10代の時に愛読した『オーディオ入門』から拝借しました。 私がオーディオに携わることになったきっかけの本です。 とても判りやすく説明されていて、手元に置いて辞書のように使っていました。 『新・オーディオ入門』はその現代版となれるよう書き進めたいと思います。
V(ボルト)電圧の単位です。壁のコンセントは100V、乾電池は1.5V、自動車のバッテリーは12V、モバイルバッテリーは5Vです。
電圧は交流(壁のコンセント)と直流(乾電池やバッテリー)の両方に使い、単位は両方ともV(ボルト)です。
一般的に電圧は電源電圧を現すことが多いのですが、オーディオでは音楽信号の大きさを現す単位としても使用します。
CDプレーヤーの出力電圧は2v(P-P)、なつかしいカセットデッキの出力は0.7v(RMS)と表示されていました。
信号の電圧の場合、括弧書きで(P-P)や(RMS)と書かれていることがあり注意が必要です。上図は直流と交流の電圧を現した図です。
縦軸が電圧、横軸が時間を現しています。右側は直流で時間が経過しても電圧は一定で変化しません。
直流の場合は④の数値がそのまま電圧となり『uボルト』と表現します。
直流は簡単に電圧を読み取ることができるのですが、問題は交流です。
左側は交流で常にプラスとマイナスが入れ替わっており、時間の経過とともにプラスuボルトからマイナスuボルトまで変化している様子を現しています。
そのため交流には3つの表示法があります。
①は(P)で表し『ピーク』です。②は(P-P)で表し『ピーク・トゥ・ピーク』、③は(RMS)で表し『実効値』といわれます。
波形が正弦波であれば③=①/√2となります。つまり、①が1V(P)のとき、②で表現すると2V(P-P)、③では0.7071V(RMS)となります。
交流を供給している壁のコンセントの端子には極性があり『プラス』『マイナス』と表現する方がありますがこれは間違いです。
正しくは『ライン』『アース』といい、もし、壁のコンセントが『プラス』『マイナス』がある直流だったら大変です。
コンセントを間違えて逆向きに接続してしまったら、掃除機のモーターが逆回転してゴミを吐き出したり、時計が逆回転する可能性も。
また、V(ボルト)は補助単位をつけて表現されることがあります。一般的に使用されるのは次の4種で、
KV(キロボルト)、V(ボルト)、mV(ミリボルト)、μV(マイクロボルト)です。1KV=1000V=1000000mV=1000000000μVです。
A(アンペア)は電流の単位です。DCアダプターに『5V 2A』の様に書かれている『2A』の部分にあたります。
また、100vの電源ケーブルは色々な太さがありますが、太いものは15Aのように表示され多くの電流を流すことができますが、
細いものは7Aというよう多くの電流を流すことができません。
オーディオでは、電流値がアンプの仕様書に登場することは少ないのですが、電流値の大小はケーブルの選択時には重要です。
例えば、スピーカーケーブルです。細いスピーカーケーブルをお使いの方も多いようですが、スピーカーケーブルには瞬間的には意外と大きな電流が流れます。
たとえば、パワーアンプで50w(P)の出力で音楽を再生している場合、スピーカーのインピーダンスが4Ω(オーム)ならば、
電流との関係は以下の式で表すことができます。電流をIとすると、
P=(I^2)R
50=(I^2)×4
I=3.54A(アンペア)です。音楽のピーク(音量が大きいところ)はその4倍にもなり15A(アンペア)近くになります。
これだけの電流を流すためには2スケア(断面積2平方ミリメートル)以上の太さの電線がほしいところです。
プリアンプとパワーアンプを接続するRCAケーブルではどうでしょう?
パワーアンプの入力インピーダンスは47キロオーム、プリアンプの出力は0.7ボルトですので、
オームの法則よりI=E/R=0.7/47000=0.0000149A(アンペア)=0.0149mA(ミリアンペア)となり、
0.5スケア以下のかなり細いケーブルであっても、電流値に関しては全く問題ありません。
多くの方が太いRCAケーブルを好まれるのは、耐ノイズ性を高めるためです。
編組率の高い(網目の細かい)シールドを施したり、2重シールドにしたりするとRCAケーブルであっても程度の太さが必要となってきます。
電流には補助単位をつけて表現されることがありますが、一般的に使用されるのはA(アンペア)とmA(ミリアンペア)だけです。
1A=1000mAとなります。
W(ワット)は、電子レンジが750W、こたつが600Wのように熱量を現す単位です。
家電製品ではその機器が消費する電力を現します。
電力W(ワット)は電圧V(ボルト)と電流A(アンペア)の積で現し、
100Wの電球を点灯させると、コンセントの電圧は100Vですので
P=EI
I=P/E=100/1=1
1A(アンペア)の電流が流れているということになります。
オーディオでは『このパワーアンプの電源の消費電力が200W』というように電源容量を現したり、
『このパワーアンプの出力が50W+50W』というようにパワーアンプの出力電力を現すために使用されます。
W(ワット)は熱量の単位ですので上記のパワーアンプは計算上は200Wの電源を入力し、
50+50=100Wを出力したのですから
200-100=100
100Wがパワーアンプから熱となって空間に放出されることになります。
スピーカーでは許容入力にも使用されます。
『許容入力60W、最大入力90W』というスピーカーであれば、『音楽信号の平均値は60W以下に、最大値は90W以下で使用できるスピーカー』となります。
電力は補助単位をつけて表現されることがあります。一般的に使用されるのはKW(キロワット)、W(ワット)、mW(ミリワット)です。
1KW=1000W=1000000mWです。
ところで、W(ワット)もカロリー(cal)も熱量の単位ですので相互に変換が可能です。1Wh=860calです。
Wh(ワット・アワー)は1Wを1時間使用した熱量です。
一般的なスピーカーを一般的な音量(5W+5W)程で1時間再生するのに使用するエネルギーは8.6Kcal必要となります。
コンビニで売られているおにぎりが1ケ200Kcalほどですのでオーディオは意外と燃料効率が良いエコな趣味だと思います。
Ω(オーム)は、一般にはあまり使用されませんが、電気抵抗を現す単位です。
電気抵抗は『電子回路における電流の流れにくさ』のことで、電流が流れにくいと『抵抗値が高い』、流れやすいと『抵抗値が低い』と表現されます。
交流回路では『インピーダンス』と呼ばれることもあります。これはオーディオでは比較的よく登場するポピュラーな単位です。
例えば、レコード再生用のカートリッジのインピーダンス。
この場合はカートリッジ自身の送り出しインピーダンスよりも、フォノイコライザーの入力インピーダンスが重要です。
MMカートリッジの場合は47KΩですが、MCカートリッジは数オームから数百オームまで様々。
カートリッジに合ったインピーダンスを選択しないと高音域が低下したり、音量が下がったりします。
MCカートリッジは高価ですが、多くのオーディオファンがインピーダンスを無視した組み合わせでその性能を発揮できていません。
MCカートリッジのインピーダンスはかなりデリケートです。専門家にアドバイスを求めるのが良いでしょう。
プリアンプやパワーアンプの入力インピーダンスもよく耳にします。10キロオームから100キロオーム程度です。
プリアンプ1台にパワーアンプを1台だけ接続する場合は問題ありませんが、複数の機器を1台のプリアンプに接続するような場合は注意が必要です。
スピーカーのインピーダンスもデリケートな存在です。現在では4オームが多いのですが、20年程前までは8オーム、1960年代以前の真空管時代は16オームが標準でした。
現代のパワーアンプに現代のスピーカーを接続するのであれば問題はおきませんが、真空管アンプに現代のスピーカーを接続して使用すると問題が発生することがあります。
また、小さな抵抗値には補助単位をつけて、mΩ(ミリオーム)書かれることがあります。スイッチや端子の接続時に発生する僅かなロスを現すために使用されます。
1Ω=1000mΩです。
Hz(ヘルツ)は周波数を現す単位で日常的に多くの場面で使用されています。
最もポピュラーなのは商用電源(壁のコンセント)の周波数でしょう。西日本は60Hz、東日本は50Hzです。
これは明治時代、西日本の電力を担っていた大阪電燈が米ゼネラル・エレクトリック製の60Hzの発電機を、東日本の東京電燈がドイツAEG製の50Hzの発電機を輸入したためで、
2つの周波数が混在する国は非常に稀です。
さらに、WiFiの周波数が2.4GHzと5GHzであったり・・・FM東京の周波数は80.0MHz・・・というように日常的に幅広く使用する単位です。
オーディオコンポーネントでは周波数特性として取り上げられることが多いと思います。
ヒトの耳は20~20KHzの周波数帯域を聴き取ることができるといわれています。
この帯域を可聴帯域と呼び、可聴帯域を不足なく再生することがオーディオコンポーネントの目標でした。
1980年代にCD(コンパクト・ディスク)がこれを実現しましたが、しかし、聴感上アナログレコードを上回るとは言い難い音質という評価を受けてしまいます。
アナログレコードは50KHz程度まで録音可能でしたので、これに倣いデジタル音源の広帯域化が進みました。
DATでは25KHz、DVDは50KHz、ブルーレイは100KHz、そして現在のハイレゾ再生へと進化してきました。
Hz(ヘルツ)はハイレゾオーディオにおいてサンプリング周波数を表現する際にも使用される単位です。
CDは44.1KHz、DATは48KHz、ハイレゾ音源では96KHzが一般的で、中には192KHzのものもあります。
デジタル録音ではサンプリング周波数の約半分の周波数まで記録できます。そのためCDは20KHzまでしか再生することができません。
周波数は高くなると補助単位をつけて、Hz(ヘルツ)、KHz(キロヘルツ)、MHz(メガヘルツ)、GHz(ギガヘルツ)のように表示されます。
1GHz=1000MHz=1000000KHz=1000000000Hzです。今後さらに高い周波数も実用化されるでしょう。
inch(インチ)は長さを表す単位として主にアメリカで使用されています。
1inch(インチ)は2.54cmです。
日本でも使用されることがあり一般的なのは男性用デニムのウエストサイズです。32inchは81cmとなります。
オーディオでは意外と多くの場面で使用されます。
アメリカ製のオーディオコンポーネントには『インチネジ』が使用されています。
日本やヨーロッパで使用されている『ミリネジ』とは太さもネジのピッチも異なり合いません。
アメリカ製のオーディオコンポーネントのメンテナンスでは注意してください。
スピーカーユニットの大きさもインチで現されることがあります。振動板の直径が38cmのウーハーユニットは15inchウーハー(じゅうごいんちうーはー)と呼ばれます。
30cmのウーハーユニットは10inchウーハー(とーいんちうーはー)、
16cmのスピーカーユニットは6.5inchなので(ろくはん)と呼ばれます。
ホーンスピーカーに使用する2.5cmのコンプレッションドライバーは1inchドライバー(いちいんちどらいばー)と言われます。
また、業務用の音響機器を収納するラックの寸法はEIA規格とJIS規格があります。
EIA規格は米国電子工業会策定したものでインチを使用しています。標準ラックの幅は19inch(インチ)482.6mmです。
JIS規格(日本工業規格)のラックでは480mmになります。日本では2つの規格が混在しているので注意が必要です。
inch(インチ)にはcmやmm、Kmといった補助単位はありません。
長い距離を現す場合はft(フィート)やyard(ヤード)、mile(マイル)を使用します。そのため変換はかなり面倒です。
1mile=1760yard=5280ft=63360inchとなりますが、長さの対象に対して慣用的にどの単位を使用するのかが決まっています。
列車の距離はmile(マイル)、ゴルフではyard(ヤード)、飛行機の高度はft(フィート)で表され、他の単位を使用することはまずありません。
dB(デシベル)は正確には単位ではありませんが、ここでは単位に準ずるものとしてご紹介したいと思います。
dB(デシベル)は2つの異なる用途に使用されるので注意が必要です。
ひとつは音の絶対的な大きさを表し、もうひとつは音楽信号の相対的な大きさをを表します。
音の絶対的な大きさを表す単位としては騒音等の音圧レベルを測定する際に使用されています。
人間の聴力限界の音量である20マイクロパスカルと規定し、この音量を0dB(デシベル)として音量を現します。
図書館の中は40dB(デシベル)、普通の会話は60dB(デシベル)、救急車のサイレンは80dB(デシベル)、
電車が通る際のガード下は100dB(デシベル)、飛行機のエンジンの近くは100dB(デシベル)程だと言われています。
音楽を楽しむときにスピーカーで再生される音量は60~80dB(デシベル)程度ですが、
音は距離の2乗で減衰していきますのでリスナーの耳に届いた状態ではそれほど大きな音だという認識はないかもしれません。
別の用途として、音楽信号の相対的な大きさを現すことがあります。
電圧を現す電圧デシベルと電力を現す電力デシベルがありますが、ここでは良く使用する電圧デシベルを例に説明していきます。
相対的な大きさですので自身で基準を決めてもOKです。その基準値を0dB(デシベル)とします。
ライブハウスなどで『マイクを6dB(ろくでし)アップ』と言えば、マイクの音量を現在の2倍にするという意味になり
『-10dB(まいなすじゅうでし)で』と言えば、1/3にするという意味になります。
2倍は6dB、3倍は10dB、10倍は20dBという3つを覚えておけば対数の特徴からデシベルと比は簡易的に計算することができます。
例えば、6倍は2倍X3倍ですので対数では足し算となります。6dB+10dB=16dBとなります。
5倍は10倍の1/2倍ですので、20dB-6dB=14dB、30倍は10倍X3倍ですので20dB+10dB=30dBとなります。
尚、dB(デシベル)は本来B(ベル)という単位なのですが、これでは大きすぎるため、一般には1/10のdB(デシベル)が使用されます。
rpm(アールピーエム)は revolutions per minute の略で、1分間の回転数を現します。
日常生活では自動車のエンジンの回転計(タコメーター)に書かれています。
これは変速機に接続される前のエンジン自体の回転数を示すもので、1分間に3000回転であれば3000rpmと表現します。
DIYで使用する電動工具にも表記されています。ハンドドリルでは2400rpm程です。
オーディオの世界ではアナログレコードの回転数に用いられます。
直径30cmのレコード盤であるLP盤の回転数は33 1/3rpm、シングルのEP盤(ドーナツ盤)の回転数は45rpmが一般的です。
稀に、LP盤を45rpmとし高音質としたものや、長時間録音を行うために33 1/3rpmとしたEP盤もあります。
アナログレコードは回転数が高い方が高音質で収録することができますが、高回転にすると収録時間は短くなってしまいます。
1950年代まではSP盤というレコードもあり、その回転数は78rpmでした。
とはいうものの100年以上前の初期のSP盤はゼンマイを動力としていた時代のものですので回転数はそれほど正確なものはなく78~83rpmでした。
電蓄(モーターを使用した電気蓄音機)が使用されるようになると、アメリカの電源周波数である60Hzのシンクロナスモータを使用して3600rpmを発生させ
1/46に落とすことで78rpmを得られることができるため、78rpmに統一されていきました。
アナログレコードで再生される音の音程は回転数に依存しますので回転数が正確で一定の速度であることが必要です。
ところがCDの回転数が問題になることはありません。
CDの回転数は200~530rpmを変化し、読み出す音楽データーの時間軸は回転数に依存しておりませんので回転数が問題になることはありません。
また、カセットテープも回転機ではありますが、カセットテープはテープスピードが4.76cm/秒と決められており
モーターの回転数は一定ではありません。